名古屋駅のいろんなお話

名古屋駅のいろんなお話

誰にも気づかれなかったイチロー

イチロー3000本安打


筆者は20数年前、名古屋駅近辺で働いていた。
そのため名古屋駅のコンコースを通ることも多く、
通勤や旅行者の人混みの中を歩いていた

すると
斜め前に白いショートパンツに白地のTシャツを
着てスポーツバッグを片手で担ぐ男性に気がついた
男性といっても雰囲気は高校生くらい
顔を見ても童顔で、部活帰りの高校生かと
一瞬思ったが、よく見ると顔に覚えがあり、
鈴木一朗とようやく気がついた。
イチローに改名したかしないかくらいだったと
思うが、人混みの中誰にも気づかれることなく
(というかまだ殆どの人が知らない)
スタスタと前を見て歩いていた。

おそらく自宅へ立ち寄ったタイミングだったと思うが
私は斜め後ろを歩いて彼から出ている僅かな
オーラを感じながらも、声をかけたりサインを求めることはなかった。

その当時、彼はそこまでの存在では無かった。
私だけが気づいてあげていた、ということが
私からの僅かばかりの彼に捧げる称賛だった。

彼はそんなことを気にも留めず、
目的地に向かって前を向いて歩いていった。

私は心の中で彼に対し、プロとなっても誰も気づかれないことに、
少しの悲哀を感じるとともに、前を見て歩く彼に
なんとなく彼のプロとしての矜持を感じていた。

その後ろ姿を斜めに見ながら、
私も自分の目的地(会社)へと歩いていった。

今思えばサインでも貰っておけば、と思うが
その時は貰わなかった。
それは、当時私の中にあった
青臭い僅かばかりの
矜持のせいだったのかもしれない。